チプルママ vol. 11
昨日は、始めて腹水を抜きました。
太い管で抜くのは負担が大きいとのことで、細い管で抜いたのですが、全部抜くことはできず、途中までで止めにしておきました。
そして今日、いつもの痛み止めがなかなか効かず、トイレに行くのにもウナリながら行っていました。
個室にも移りトイレも部屋の中にあるので、今までよりはラクなはずなんですけどね。
食欲もほとんど無くなってしまって、夕食時にリンゴをほんの少し。
ふと見ると、今まで黄金色していた胆汁がドス黒い緑色になっていて‥‥。
あの痛がり方をみていると、モルヒネで早く痛みの無い状態にしてあげたいと思いました。
でも‥‥。
チプルママ vol. 12
深夜、我慢できないほどの痛みが出てしまい、トイレにも行けない状態に。
看護婦さんを呼ぼうとするんですが、チプルママは我慢をして「あともう少し待って」と。もう、そんなに我慢することないのに。看護婦さんは忙しいからとか、気を使いすぎだよ。。。
とりあえず、尿を出すための管を入れ、再度、腹水を抜くことになりました。
前回はあまりうまく抜くことができず 200cc 程度でしたが、今回は 2リットルもの真っ赤な腹水を抜くことができました。おかげで、今まで張っていたお腹がものすごくへこみ、チプルママもラクちんになってくれました。
しかし、お医者さんのお話では、2 〜 3日でまた腹水は貯まってきてしまうとのこと。こればかりは抜いても抜いてもどんどん貯まってきてしまうそうです。
また、張ったお腹はラクになったものの、痛みはどんどん増えていくだろう、とのことで、モルヒネの投与をお願いしました。
これ以上、辛い思いをしているチプルママを、見ることはできませんでした。。。
チプルママ vol. 13
モルヒネの投与で、目がうつろになっちゃいました。
視点が定まらず、でも、声をかければ反応してくれます。
たくさんのお友だちが、お見舞いに来てくれました。
チプルが話かけても反応薄かったりするんですが、お友だちが声をかけるとすごい嬉しそう。
「ありがとう!」「がんばる!」を連発していました。
なんだか、すごいやる気です。
面会時間終了時に「チプルはもう帰るからね!」と声をかけると、ものすごく寂しそうな顔をしました。
その顔を見て、今晩は泊まることにしました。
あの顔は、一生忘れることができそうにありません。
大丈夫、いつもそばにいてあげるから。
チプルママ vol. 14
深夜から朝にかけて、寝て、起きて、の繰り返しです。
タンの吸引のたびに、とってもイヤがって暴れます。そのたびに手足を押さえながら「ごめんね、ごめんね」を繰り返した深夜でした。
そして、自分でバタバタとあばれているのに、押さえているチプルの頭にチプルママのエルボが決まると「ごめんなさい」と謝っていました。
時折、「ハッ!」と目を開けて両手を上にあげて何かを掴もうとしている仕草をとります。そして「起こして、起こして」と言うたびに「寝てていいから、起きなくていいんだよ!」とゆっくりとなだめて眠りにつかせました。
これを、何度も繰り返していました。
今考えると、また立ち上がって自分の足で歩きたかったのかなと思います。
がんにもモルヒネにも負けない。まだ死なない。まだやりたいことがあるのに、と。
チプルママの生命力を、ものすごく感じました。
生きようとするチカラ。意志の強さ、我慢強さ、謙虚さ。
がんばって呼吸をして、病気にも薬にも負けないチカラ強さ。
チプルママってすごい、母って強い、女性って強いんだ、って心の底から感心し、敬服し、そして、なぜチプルママがすい臓がんなのか、悔しくて涙が止まりませんでした。
本当に悔しいです。
命はいつか失われますが、でも、今じゃなくてもいいのに。
もっと一緒にいたいです。
もっと早くに病気のことを気付いてあげたかった。
もっと効果のあるかもしれない治療を調べてあげたかった。
これから、もっと人生を一緒に歩きたかった。。。
お昼過ぎに、呼吸の仕方が突然変わりました。
通常 90以上ある血液中の酸素の値が、急に 66 まで下がり始めました。
呼吸をしても、酸素を取り入れることが出来ない状態です。
苦しそうな呼吸が 5分ほどしたのち、呼吸が浅くゆっくりと変化していました。
一遍して、やさしい表情に変化していきます。
もうがんばることはしないでいいのに、がんばってゆっくりと呼吸をしています。
目をぱっちり開き、どこか一点を見つめているようです。
クチで呼吸をしながら、息を吐き出すときに、何かの言葉を発しているようです。
くちびるを読むと、「チプル...」と呼んでいるような気がしました。
何度も何度も、呼んでいます。
ありったけの言葉を、とにかく叫んでいました。
「ありがとう!」
「産んでくれてありがとう!」
「チプルママの子でよかった」
「もうがんばらなくていいんだよ」
「2年間、よくがんばったよ」
「あんなにがんばったのに、悔しいよお」
「本当に悔しいょぉ...」
「でも本当にありがとう」
とっても長かったです。
1時間は、ゆっくりとした呼吸をがんばっていました。
ひとつひとつの呼吸を、脳裏に焼きつけました。
胸をさすって手を握って、一緒にゆっくりと呼吸をして。
そして、息を「はっ」と吐いて、次の息を吸うことはありませんでした。
のんびりとした呼吸が、もう一度再開されることはありませんでした。
すごく静かに、やさしい表情で眠ることができました。
家族みんなで、看取ることができました。
たくさんのお礼の言葉を、伝えることができました。
でも、チプルが今までやってきたことすべてが、よい方向に向かうことはありませんでした。。。
チプルの選択が正しかったのかどうか、今は正直、判断することができません。
ただ、セカンドオピニオンや今後の治療についてチプルの選択を正しい方向だと信じ、一緒に歩んでくれたことは、チプルママにとってもチプルにとっても、とっても幸せなはずだったと思っています。
本当に悔しいです。
最期は後悔しないようにしようと思っていても、母親の他界を後悔しないようにすることなんて、チプルにはできません。もっとたくさんやりたいことがあったであろうに、それを叶えてあげることができなかったんです。
不老不死なんて、望みません。
ただ、一緒に歩む時間を少しでも多く与えてあげたかったです。
ありがとう、お母さん。
チプルママ vol. 15
昨日の続きと病院でのお話を。
チプルママが息を引き取った直後、クチから血がツーっと流れてきました。ちょっと痛々しい光景で、きっとお腹の中はすごいことになっていたのに息のあるうちはそんなこともなかったので、命のある限り必死にがんばっていたんだなぁと思います。それでも痛みが無かったかのように静かに眠っていったので、適切な処置をしていただいたお医者さんと看護婦さんに感謝です。
チプルママは、すい臓がんになって自宅治療をする前、看護補助のお仕事をしていました。看護婦さんのお仕事の大変さが分かっていたので、痛み止めの点滴がなかなか来なくても、シャワーをお願いするときも、とっても気を使って「今は忙しいから、まだ呼ばないで」なんてことを言っていました。
自分の痛みを我慢して、人に気を使っていたチプルママでした。
お腹から胆汁を出すための管を通していたので湯船に入ることは当然できず、痛みのせいでシャワーを浴びることも億劫になっていて、チプルが勧めてもなかなかシャワーに行くことに気がすすまない様子だったとき。
一週間ぶりにチプルママの部屋の担当になってくれた看護婦さんが、
「久しぶりに担当になったから、洗髪させてほしいなぁ」
「今度いつ担当になれるか分からないから、シャワー行きましょうよ」
という勧め方をしてくれたので「じゃあ行こうかしら」と、嬉しそうにシャワーに向かっていったときがありました。
この看護婦さんにはその後もずっとお世話になり、チプルママの最期を看取っていただきました。
モルヒネで意識が朦朧としているチプルママに、この看護婦さんが話しかけるとニコっとしていたチプルママが印象的でした。
主治医のお医者さんは、実はチプルママのすい臓がんを初めに発見してくれたお医者さん。家族の判断でセカンドオピニオンの末、別の病院の別のお医者さんに手術をお願いしたのですが、そのお医者さんが「もっと近くの病院で最期を診てもらった方がイイのでは?」ということで、初めのお医者さんに戻ってお願いしたのでした。
このお医者さんは、手術を別のお医者さんにする判断をしたにも関わらず二つ返事で入院を受け入れてくれて「なにもできない状況で、本当に申し訳ない」と言いながら、親身になって痛みの緩和を優先した処置してくれました。
こちらこそ、どうすることもできない状況でチプルママの辛い処置をお願いして、とても大変だったと思います。
他界したあと、エンジェルセット(亡くなった人の処置をする道具セット)を持った看護婦さんたちがチプルママをきれいにしてくれました。
そして、病室にあったたくさんの荷物をまとめました。
つい先程まで使っていたタオルや着替えるはずだったパジャマ、大好きだったカフェオレ、いつも見守っていたプーさんのぬいぐるみ、愛用の湯飲みや水筒。。。
キレイになったチプルママの横で、たくさんの話しをしながらお片づけをしました。
最後にナースセンターのみなさんに深々とお礼をして、チプルママを乗せた葬儀屋さんの車を NewMINI で先導していきました。
退職する前に勤めていた病院前、通勤で通った駅の前、病気になったあと NewMINI で買い物に通ったスーパー、大好きだったアジサイ園、体力回復のために歩いた散歩コースなどなど、思い出の場所をぐるぐると回って、一度自宅に到着しました。
ちょっと寂しいですがチプル家は団地で部屋が狭く、お通夜まで二日を空けることから、家に戻ることなく葬儀予定の会場に移動しました。
そのまま葬儀などについて色々な打ち合わせ。
亡くなったことを悲しむ暇がありませんが、今はそのほうがよいのかもしれません。お友だちがたくさん来ると思うので、最後までがんばって立派な告別式をしてあげなければ。
告別式の会場の安置所にチプルママをお預けして、お線香をあげました。よくある表現ですが、今すぐにでも起き上がりそうな、そんな静かな寝顔でした。
でももう、起きなくていいかなと思います。
あれだけがんばったんですから、今はとにかくおやすみなさい。
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